TOP > NEWS > 2007年9月1日

宗教法人「生長の家」では、文部科学省の人クローン胚の研究利用作業部会が、6月20日付で発表した「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について」の資料に対して、このほど見解をまとめ、同省に提出した。この見解は、同省研究振興局ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室が公表していた「中間とりまとめ」に対する意見募集(締切8月31日)に応答したもの。人クローン胚の研究利用については、生長の家副総裁・谷口雅宣先生が、ご著者『今こそ自然から学ぼう』(宗教法人「生長の家」刊)などで、反対の立場を明らかにされていたが、当法人として公式な見解を公表したのは今回が初めて。(2006年9月1日)

                                             2006年8月30日
文部科学省研究振興局
 ライフサイエンス課
  生命倫理・安全対策室 殿

                                        宗教法人「生長の家」総裁室

                 「人クローン胚中間とりまとめ」への意見

 この度、文部科学省の人クローン胚の研究利用作業部会は、6月20日付で「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について」という中間とりまとめの資料を発表した。宗教法人「生長の家」は、この資料を読み、国が人クローン胚の研究・利用にゴーサインを出す一歩手前まで来たことを憂慮する。
 生長の家では、人クローン胚は、ヒト受精胚と同様に胎内に戻せば人として生まれる可能性をもつものであるから、それを研究目的に利用することは、人間の命を他人の目的のために利用することになるので、反対する。今日では、倫理性、安全性、実効性に問題の多い人クローン胚を利用しなくても、患者本人の体内にある体性幹細胞(成人幹細胞)を利用した再生医療の道が開かれている。わが国はそちらの研究に焦点を合わせ、人材、資本、資金を投入すべきと考える。

 同中間とりまとめでは、人クローン胚由来のES細胞の樹立は、「拒絶反応のない再生医療が実現できる可能性がある」(pp. 11~12)との期待のもとに、人クローン胚を研究目的に利用することを一定の条件の下に容認している。
 その一方で、同中間とりまとめは「人クローン胚は、ヒト受精胚と同様に“人の生命の萌芽”と位置付けられ、倫理的に尊重されるべきものとされている」とするが、「倫理的に尊重する」とは、具体的にどのように扱うかについては、ほとんど述べられていない。
 現在の科学技術の段階では、ES細胞を作成するためには、受精卵や胚を破壊するか、あるいは手を加えて変える必要がある。これは、適切な環境下におけば人間の体に成長する生命に対して、その道を閉ざす、あるいは将来のリスクにさらすことになるから、我々は「人の生命の萌芽」として尊重していないと考える。

より具体的には、生長の家は以下の理由により、人クローン胚の研究・利用に反対する。

1.同中間とりまとめに表われた論理は、大きく矛盾している
 同中間とりまとめには、「人クローン胚の研究目的の作成・利用については、他に治療法の存在しない難病等のための再生医療の研究目的に限って認め、クローン技術規制法に基づく特定胚指針の改正等により必要な枠組みを整備すべきとされた」(はじめに)とある。
 しかし、その一方で、28ページに「他の治療法がある場合にも人クローン胚の作成・利用を行う妥当性」という項目を設け、「臓器移植、組織移植等や、体性幹細胞等を用いた再生医療において臨床研究や応用が行われている疾患であっても、ドナー不足、拒絶反応、安全性、量の確保等、その治療に当たって何らかの問題がある場合には、人クローン胚の作成・利用を行う研究の対象として、他に治療法が存在しないものとして取り扱う」と書いてある。これでは、例外の範囲を拡大していくことで原則を実質的に否定しているに等しい。
 難病治療を目的として指針を作ったのであれば、「他に治療法が無い」のが大前提であり、その前提が崩れるのであれば、直ちに研究を中止するのが当然の帰結である。

2.「他者の生命の犠牲の上に成立する医療」は倫理的でない
 順調に細胞分裂が行われている人クローン胚は、通常の人体がそこに現象として観察できなくても、「人の生命」が表れている“場”と考えなければならない。そこからES細胞を作成するためには、最低一個の胚を破壊し、あるいは傷つけなければならない。それは、最低一個の人間の生命から“表現の場”を奪い、あるいは危険にさらすことである。そのことが、たとえ他の人間の難病治療のために有効であっても、それは「他者の生命の犠牲の上に成立する医療」である。我々はそれを非倫理的と考えるから、反対する。

3.「神経に障害をもつ人間を、他人の治療手段に利用できる」という考え方が社会に広がる可能性がある
「特定胚の取扱いに関する指針」の第7条には、「特定胚の作成又は譲渡後の取扱いは、当該特定胚の作成から原始線条が現れるまでの期間に限り、行うことができるものとする」とある。
 発生後14日経過して胚に原始線条が現れるとされているが、原始線条が現れる前の段階の胚は神経細胞が未発達であるから、痛みを感じないとする論法である。しかし「痛まない生命は破壊して構わない」という考え方は、生命体の物質的側面しか認めない未熟な倫理観である。この考え方を延長させれば、痛覚麻痺に陥った人の肉体は他人の目的に利用できることになり、神経細胞の機能を重視するのであれば、その機能が衰えた神経系疾患の患者、終末期の人間の肉体も、本人の同意なくして利用可能になる。
 このように、生命体に「意思」があるかどうかの判断は、神経細胞の発達度や機能の健不健を基準にすることには無理がある。初期段階の人の胚は、一旦順調に細胞分裂を開始した時点で、人間として生きる意思があると考えるべきである。そのような胚の1つである人クローン胚を、研究利用のために破壊することを容認すれば、「痛みを表現できない者」「神経に障害がある者」は他人の目的のために利用してよいという考えが、社会に広がる道を開くことになる。

4.未受精卵の入手には危険が伴い、提供者に精神的、肉体的な負担を強いる
 同中間とりまとめでは、生殖補助医療で使われなくなった卵子を利用してよいとしているが、不妊治療を受けている女性にとって、卵子は特別な思いのこもった存在であることに疑いの余地はない。
 さらには、卵子を取り出すためには、副作用の強い排卵誘発剤を使用しなければならず、それによって死亡した人もいる。このように未受精卵の入手には危険が伴うとともに、提供者に精神的、肉体的負担を強いるものである。
 そのような状況の中で、卵子提供を求めることが、妥当なことであるとは思えない。また、患者という弱い立場にいる人の気持ちを考えれば、適切なインフォームドコンセントが成立することも疑わしい。

5.人クローン胚からES細胞を樹立した実績は、世界中にまだ存在しない
 これは、人クローン胚利用の技術の確立がいかに困難であるかを示している。にもかかわらず、倫理的問題がある中で、実現可能性の少ない研究を推進する意味が不明である。

6.再生医療の分野では、他に有望で、実績のある方法がすでに存在する
 体性幹細胞(成人幹細胞)による再生医療は、ヒト受精胚や人クローン胚によるES細胞の場合より倫理的な問題が少ない。また、患者自身の細胞を使うため拒絶反応もないなど、より安全である。さらに、幹細胞の採取に際しても患者への負担が少ないものが多い。
 体性幹細胞は、ヘソの緒中の臍帯血に含まれるものをはじめ、胎盤、血液、毛根、筋肉、脳、皮膚、皮下脂肪などにも分布していることが明らかになっている。なかでも造血幹細胞移植は、同中間とりまとめ中に「高度先進医療として臨床で用いられている」と指摘しているように、すでに一般的な医療となっている。これに加え、最近注目すべきことは、京大の再生医科学研究所の山中伸弥教授が、マウスの皮膚細胞の遺伝子を操作することで、ES細胞と酷似した状態を実現したことである。
 アメリカの連邦食品医療薬品局(FDA)でも、次の9つの病気に対して、体性幹細胞を使った臨床治療を認めているなど、ES細胞の利用よりも確実性のある治療法である:

(1) 急性リンパ性白血病 Acute Lymphoblastic Leukemia
(2) 慢性骨髄性白血病 Chronic Myelogenous Leukemia
(3) 若年性骨髄単球性白血病 Juvenile Myelomonocytic Leukemia
(4) 骨髄異形成 Myelodysplasia
(5) 急性骨髄性白血病 Acute Myelogenous Leukemia
(6) 多発性骨髄腫 Multiple Myeloma
(7) 重症複合免疫不全症候群 Severe Combined Immunodeficiency Syndrome-X1
(8) 再生不良性貧血 Aplastic Anemia
(9) サラセミアメジャー Thalassemia Major
(※ 進行性サラセミア Advanced Thalassemia)

 以上のことから、生長の家は、倫理性、安全性、さらには実効性の面で問題の多い人クローン胚の研究に力を注ぐかわりに、すでに治療実績のある体性幹細胞の研究に注力すべきと考える。


PDF版はこちら


page top ▲