繁栄ストーリー

「働く幸せ“利他のすすめ”」【後編】

2015年4月19日  


日本理化学工業株式会社  取締役会長  大山泰弘

大山泰弘

小学生の言葉に感動

ある時、私立の有名な小学校から、お母さんと5年生の男の子が、日本理化学の工場を見学に来た時のことです。たまたま時間があったので、私がチョークを造る工程だけを案内しました。

まだ小学生だし、障害者雇用の話をしても解らないだろうと思い、ひと通り工場を案内し終えた後で、「でもね、君みたいに優秀な学校を卒業した人なんて一人もいないんだよ。文字も数字も読めない子達が、ああやって一所懸命やってくれているから、会長さんも助かっているんだよ」と言いましたら、彼はびっくりした顔を上げて、「エッ、そんな人が?」という表情をしました。その日は「ありがとうございました」と帰って行かれたのですが、それから2週間ほど経ってから、彼からこんな手紙を貰いました。

『天の神様は、どんな人でも世の中の役に立つ才能を与えてくださっているんですね。僕は、あのにょろにょろ管から細い長い物が出てくるのを、板の上に15分も真っ直ぐ並べるなんて、できそうもありません』と書いてありました。自分にはできそうもない事を、あの人達はあんなに上手にできるという事に驚き、神様は全ての人に、世の中の役に立つ才能を与えられているのだと、感動したわけですね(拍手)。

そして、この少年の言葉が、かつて聞いたことのある二つのたいせつな事を、改めて思い出させてくれたのです。

一つは東邦大学医学部の教授が、私に話してくれた“共感”という言葉です。

私がうちの従業員の話をしたところ、その教授は「大山さん、神様は、どんな人にも、周りの人の役に立つ事に嬉しさを感じる感情を与えているのです」と言われました。これを“共感”と言うのだそうです。人は皆、認められ、誉められることに、生き甲斐と喜びを感じるのだと。

だからうちの従業員達も、上手くできた時に、リーダーが誉めて励ましてくれることが彼らの喜びと生き甲斐になり、さらに一所懸命仕事に励むようになるということですね。

素晴らしい日本の“職人文化”

それともう一つは、ハンガリーの女性記者の方が、「ジャパン・タイムズ」に記事を書くために見学に来られた時の事です。

ヨーロッパでは、従業員を採用する時のマニュアルがあって、文字が読めない人は雇用の対象外とされているのです。

ところが日本理化学では、重度の知的障害者を採用して、しかも立派に会社の戦力としている。一体どうやっているのか、そのことを書くために来られたのです。

そして、ひと通り工場を見学し終わった彼女の口から、「日本の中小企業は、素晴らしい“職人文化”を持っているのですね」という言葉が出た時には驚きました。

字が読めなければ、「じゃあ、こうやってみなよ」と、手取り足取りして技術を伝えながら、仕事を教え込ませていく。それは大工さんだとか、左官屋さんの世界にあるのは知ってはいましたけれども、我が社の指導法が“職人文化”とまでは考えたこともなかったからです。

でも、日本の中小企業が、こういう重度の障害をもった子供達に仕事を教えるのに、この“職人文化”という考えを活用すれば、この子達も、世の中に必要な働く企業人にする事ができるのだと、気づかされたのです(拍手)。

本当にありがたい事でしたが、同時に私は、今の福祉のあり方が、本当にこれで良いのだろうかと考えるようになったのです。

「福祉とは何か」を考える

仕事はできないだろうということだけで、一生を福祉施設で過ごすという事について、何となく釈然としなかったのですが、先程お話したように、禅寺のご住職から、「企業が人を幸せにする」という言葉を聞いた事で、漢和辞典を引いてみましたら、“福祉”について、こう書いてありました。

福祉という言葉はいずれも示偏が付いていますが、これは神様が人間を幸せにする恵みを与えていることを表していると書いてありました。“福”という字は、「神様が人間が生きて行くうえで、食べて行くのに困らない幸せ」を与えてくださっていることを表している。また“祉”という字は、止まると書いてあります。これは「神様が人間の心に止まって、心を幸せにする」ことを表す言葉なのだそうです。

ですから人間の幸せは、物に不自由しない幸せと共に、心が満たされる幸せ、その二つが揃って初めて幸せになれるのだという事を知りまして(拍手)、本当にありがたく思いました。

私が法学部で学んだ憲法の第27条には、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」と書いてありますが、それは、一人前に働ける働けないに関係なく、全ての国民は働ける権利があると同時に、その義務を皆さん果たしてくださいねと、書いてあるのだと思ったのです。

そうであるならば、一人前に働けないからといって、施設でズーッと面倒を見ればよいという、現在の国の福祉のあり方を見直して、全ての人が生き甲斐を持って働けるような世の中(皆働(かいどう)社会)にするように変えて行かなければならないのではないかと思ったのです。

今は若い人もなかなか就職できないというのですから、大変、大きな課題だと思うのです。

海外視察と渋沢栄一賞受賞で考えたこと

2009年に、私は(社)全国重度障害者多数雇用事業所協会の会長を拝命しておりましたので、海外視察のチャンスを与えられて、ベルギーに行きました。ベルギーはヨーロッパの一国ですから、マニュアル文化です。でもそのベルギーでは、字が読めないという人達を、企業が少しでも働ける場に置いてくれたら、その期間は国が、最低賃金の、当時3万ベルギーフランを払うという制度を採用していました。凄いなと思って感心して帰りました。

ところが、その年に私は渋沢栄一賞を戴いたのです。渋沢栄一と言えば、明治から昭和にかけて、大会社を幾つも創ったばかりでなく銀行も創られた日本有数の素晴らしい経済人であると同時に、地域への社会貢献を幅広く展開された立派な方です。その方にちなむ賞が3名に与えられたわけですが、その中に私も入っていたのです。

何故、私が?戸惑った私は、事務局の方に聞きましたら、その理由を教えてくれました。

2名のうちの一人の方は1億5千万円を教育関係に寄付され、もう一人の方は2億5千万円近くを医療関係に寄付された方でした。それに引きかえ、私は1円も寄付していない。しかし事務局の方が言われた受賞の理由というのは、次のようなものでした。

確かに大山さんは1円も寄付はしていないけれども、日本理化学では、重度の知的障害者を率先して多数雇用し、しかも50年近くも雇用を続けている。もしその人達が働けないからといって、20歳から60歳までの40年間を、施設で面倒をみるとすると、職員の人件費や医師まで含めた金額を定員で割ると、一人に2億円かかっているのです。

しかし日本理化学さんは15歳から長いこと雇用して、60歳を過ぎた方を既に五人も卒業させている。という事は、五人分で10億円、国のお金を節約する貢献をされたのです。それ故の表彰なんですと言われたのです。驚きました(拍手)。

私の提案・四方一両得(しほういちりょうとく)の皆働社会を

そうしますと、日本の最低賃金ですと年間150万円です。ベルギーのような制度を創って、国が障害者を雇用している企業に、年間一人150万円を払ってくれるとしますと、会社は“職人文化”を通して、立派な従業員を育成して、しかも賃金を払わないで済むので会社を強くすることができる。

また、国が福祉施設で彼らを看るとすると、年間一人500万円かかっていたところを、企業に年間一人150万円払って障害者を独り立ちさせることができると、年間一人350万円のお金を払わずに済む。つまり税金が他の方面に活かせるということになるわけです。

さらに障害者は、月に12,3万円の給与を貰う事によって、グループホームに入り、独り6万から7万円で生活できて、職員に世話をして貰えるので、両親も様々な心配から解放されて、安心できます。

つまり、国も、会社も、障害者も、その家族も、皆が幸せになれる、四方一両得の社会が実現するのです(拍手)。このような社会の実現を、私はチャンスある毎に皆様に訴えているのです。

「カンブリア宮殿」に出演し励まされる

ですから同窓会などでもここ数年、この事を話しているのですが、みんな優秀な人ばかりで、高級官僚とか、大会社の社長もいる。偉くなった友人の一人などは、「大山、チョーク屋のくせにそんなでかい事を言って、大言壮語も甚だしい。第一、マーカーが普及しているから、チョーク屋はやがて潰れて行くだろう」と言うのです。でもこの2,3年は、こう言い返しているのです。

日本理化学では、小さなお子さんでも、ガラスに簡単に描けて、簡単に消せて、しかも粉の出ない「キットパス」というチョークを創りました。これが大変好評なんです。

窓ガラスに描けるチョークというのは、紙に書くよりも、五感を刺激するから、子供の脳の発達に非常に良いのだそうです。直ぐ消せるから何度でも描けるし、粉も出ないから、お父さんお母さんも、子供さんを叱らずに済みます。

川崎製鉄さんが、キットパス用のガラスのボードを創ってくださいました。このボードは濡れた布で拭いても濡れたところに直ぐに書けるすぐれものです(実演してみせる)。

だから今までは、先生方のためのチョークが多かったが、これからは子供達の五感の開発のためのキットパスが注目されるので、チョーク屋はまだまだ潰れない、大丈夫だと(拍手)。

『カンブリア宮殿』に出演した時に、番組の最後にその話をしましたら、村上龍さんが、「大山さんは、人のために頑張っている。人の幸せのために投げたものが、ブーメランみたいにチャンと自分の幸せとなって戻って来るのですね」と言ってくれました(拍手)。

重度障害者の「無言の説法」から沢山の気づきを貰う

以上のように、私は重度の知的障害者の働く姿から、沢山の大切な気づきを与えて貰いました。彼らはものを言いませんが、その無言の説法によって、私を導いてくれました。それはちょうど、周利槃特のようにです。

昔、お釈迦様のお弟子さんの中から、特に優れた16人の弟子が選ばれましたが、その中の羅漢という地位に、周利槃特(しゅりはんどく)もその一人として選ばれたのでした。

この人は、言わば重度の知的障害者であり、自分の名前さえ言えなかったので、首に自分の名前を書いたお札を下げて、毎日、庭掃除をしておりました。そのような周利槃特が何故16人の弟子の中に選ばれたのか、不思議に思って弟子の一人がお釈迦様に尋ねました。

するとお釈迦様は、「たしかに彼は説法はできないが、彼が一心不乱に庭を掃除している姿を見ると、皆、掌を合わせたくなる。その無言の説法ができるのは彼一人である。だから彼を弟子に加えたのだ」とおっしゃったといいます。そのように、彼らも無言の説法で、私を導いてくれたのでした(拍手)。

ところで先程、「皆働社会」の話をしましたが、この“働(はたら)く”という字は、漢字ではなく日本で創られた国字なのだそうです。人のため、傍を楽にするために身体を動かすということです。現在の中国では、日本で創られた字だから使ってならぬという事で、使われていないようですが、170ほどの国字があるそうです。

マザー・テレサさんも、「人として一番不幸な人は、誰からも必要とされない人である」と言われています。私はそれまで、キリスト教というのは、神様に背いた“罪の子”だから、それを償うために、労働という苦役を与えられているのだと、そのように思っていましたが、マザー・テレサさんの言葉を知って、まさに働いて地域で役に立つ事が幸せなのだという事を逆の表現で言われたのだと理解しました(拍手)。

このように「働くことこそ、人も自分も幸せにするのだ」という事を、キリスト教社会でも言っているのですから、“働く”という字を創った日本民族である我々が、皆働社会を世界に実現することをもっと発信しても良いのではないかと、本当にそう思っています(拍手)。ありがとうございます。

これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。ありがとうございました(拍手)。

◯「愛媛教区栄える会繁栄ゼミナール」(平成25年1月13日)での講演:

生長の家愛媛県教化部◯


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