「こもれび アナザーストーリー」Vol.2

作品名『小鳥の語らい』 作者:ミセス・ローズ

――今回、お話いただくのは、押し花で2羽の小鳥が語り合う仲睦まじい様子を制作されたミセス・ローズさんです。
 ミセス・ローズさんは押し花だけでなく、普段から布小物づくりを楽しまれています。その楽しまれている姿が目に浮かぶようなインタビューとなりました。


作品ストーリー

どのようなきっかけで、この作品をつくろうと思いましたか?

 押し花をはじめたのは、押し花教室に通う母の付き添いがきっかけです。大きな教室ではなく、教えてくださる先生の個人宅(一軒家)で、数人の生徒が集まって習っていました。みなさんのとても楽しそうな姿を見るうちに興味がわき、私も習うことにしました。

――付き添いだったところから、楽しそうな姿に惹かれて…よろこびの連鎖を感じますね。

 この作品をつくったのは、何年か前です。教室には、先生がつくられた作品が沢山あり、その中に、小鳥がモチーフのものを見つけました。「可愛い、本物みたい」って一目惚れしました。同じ材料がありましたので、鳥は参考にさせてもらって、後は自分で止まり木などつくりました。

 押し花は、絵を描くように、つくりたいものをイメージしながら、花や葉っぱを組み合わせていきます。同じ材料を使っていても、つくる人によって出来上がりの雰囲気が違います。

 どんな色を使おうかと、花の色を選ぶことも、とても楽しい作業です。時間を忘れて夢中になってしまいます。だんだんと作品に命が吹き込まれていくことを感じます。

――小鳥に一目惚れされたときめきが作品にも宿っているようです。また、押し花の魅力が存分に伝わってきました。花で絵を描く、花の色を選ぶ、想像しているだけで、わくわくします。

押し花教室に通いながらつくった作品の数々


材料のポイント

押し花や布小物など、材料を探すときの基準や大切にしていることはありますか?

 押し花の材料は全て、自然のものを使っています。実家の庭で父が育てた花などを、母が押してつくっています。葉っぱ、草花、枝など、無駄なものはひとつもありません。
 同じ花びらでも、微妙に色合いや形が違います。

――まさに自然そのままの材料を使用されているのですね。また、実際に手に触れて、自分の目で見て制作されているからこその言葉だと感じます。

 布小物(ポーチやバック)を作るときは、生地屋さんで購入します。さまざまな布が売られていますが、国産の綿100%の布を選ぶようにしています。

――常に環境に配慮されているのですね。その意識は、かわいらしくて、あたたかみを感じるミセス・ローズさんの作品からも伝わってくるように思います。

国産・綿100%の布でつくった巾着
<こぼれ話>
小学生の頃、家庭科の授業で巾着を縫ったことが、裁縫での最初の感動だったそうです。たった一枚の薄い布が、端と端を縫うことで、物を入れることのできる袋になった!と。バッグもポーチも「一枚の布からできる」。その言葉から、裁縫へのわくわくが伝わってきました。

ひとつとして同じものはない

モノづくりのスタイル

普段、どのようにクラフトを楽しんでいますか?

 布小物を自宅でつくっています。とくに決まった時間はなく、休日の昼間や、就寝準備が出来た後など、アイディアが浮かんだら、ミシンを出して縫いはじめます。つくりたいと思ったときに、自由に、気軽に、つくっています。
 また、少し、体調不良のときや気分が落ち込みそうになったときほど、布を眺めるようにしています。どんなものをつくろうか、色や柄の組み合わせを考えていると、いつの間にか楽しい気分になり、元気になっています。
 ものづくりは、精神的にも、肉体的にも、とても良い作用があると思います。

――生活の中にクラフトがあるのですね。落ち込みそうになったときほど、というのは意外だなと思いましたが、確かに手作業の中でしか得られない心の充実感がありますね。単純ですが、私もミセス・ローズさんのように、生活の中にクラフトを取り入れてみたい!という気持ちになりました。

この色にこの色、と組み合わせを考えることが気分転換に♪
<こぼれ話>
おばあさまが着物を縫製する仕事をされていて、裁縫を身近に感じる環境で育ったそうです。ちなみにおばあさまは95歳までその仕事を続けていらっしゃったとのこと!そのクラフトを楽しむ想いが受け継がれてきたことを感じるインタビューでした。

失敗は成功のもと!

ずばり「失敗は成功のもと!」と思う話がありましたら教えてください。

 押し花は、全体のバランスをとることが難しいです。一つの作品に、材料(花など)をたくさん入れすぎてしまう傾向があり、色々と勉強になります。
 布小物づくりにも失敗は多々あります。はじめの頃は、ファスナーの位置を逆に取り付けてしまったり、中表に(表面が内側になるようにして)縫うところで表面を外側にしたまま縫うなどの失敗もありました。

――そんな失敗も経験されているとは、完成した作品からは想像もつかないです。

 ただ、一度失敗したら、次からは気をつけるようになります。技術も向上していくと思いますので、たくさん縫うことも練習になります。
 何より、布の組み合わせは無限にあります。大量生産とは違い、自分でつくりあげた世界にたった一つだけの作品は、たとえゆがんでいても、とても愛着がわいて、大切にしようと思えます。
 出来上がったときの感動は、自分でつくってみないと味わえないと思います。そしてまた、次も手づくりしたいとアイディアが湧いてきます。

――失敗と一言では括ることのできないプラスの面がたくさんありますね。技術が向上していくというだけでなく、感動という体験もまた、失敗があってこそなのだと思いました。お話を伺う内に、私も何かつくりたくなってきました。

布バッグの数々。他人のためにつくることも多く、どの柄がよろこばれるかな、と相手を想像しながら布を選ぶそう。

縦40cm×横47cmを3日間かけてつくった大作

作品のここに注目

今回、展示された作品について教えてください。

 小鳥が語り合っている様子をつくりました。本当に生きているような小鳥に見えるよう、命を吹き込むイメージで、可愛らしくつくりました。止まり木に見立てたツルの中心にもハートを描いています。

――ハートは手を加えて形をつくったのではなく、自然そのままの葉を使用されているのですね。花や葉などが持つ本来の形が活かされるように、丁寧に組み合わされていて、小鳥のやわらかさや、愛らしさが表現されていると感じます。今にも小鳥のさえずりが聞こえてきそうな楽しげな作品ですね。


さいごに

 連載2回目となる「こもれび アナザーストーリー」。

 前回の暁工房さんとは得意とされているクラフトの種類が異なり、また違う視点でのお話を伺うことができました。

 しかし、クラフトの種類は異なっても、クラフトの楽しみ方や考え方の根本にある意識は共通しているところもあったように思います。

 読者のみなさまにとっても、普段自分では言葉にしてこなかった思いが綴られていたり、自分の中にも同じような気持ちがあることを発見できたりと、共感できるエピソードがあったのではないでしょうか。

 自分はどんなふうにクラフトを楽しんでいたかな?と振り返り、クラフト時間がより有意義なものになるきっかけとなりましたら嬉しいです。

 次はどんなアナザーストーリーを聞くことができるのでしょうか?

 次回もどうぞおたのしみに~♪♪

(聞き手:SNIクラフト倶楽部・松尾富美子)


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花のいのちを生かす押し花

バラとクリスマスの華やかな作品
テーマは「草原の中での休日」。
散歩する女の子2人と蝶々を追いかける男の子の楽しい休日をイメージして製作

 10年ほど前から、母と一緒に押し花教室に通っています。材料は、父が実家の庭を手入れして咲かせた花などを素材に、母が押してくれた有難い物も使っています。
 ほとんどの花や葉は、1週間くらい乾燥させると押し花に使えるようになります。着色はしないで“そのままの色合い”を生かしますが、どれも美しくて個性的です。


 押し花の魅力は、「絵ハガキ」 や「しおり」等、どなたでも小さな作品づくりから楽しめることや、自然界には一つとして同じ形や色がないので、同じ種類の花を使っても雰囲気が少しずつ違って、それぞれの良さを生かした作品づくりが楽しめることです。その季節の花・葉・草・枝などを無駄なく使うことで自然を感じながら、教室の見本を参考にし、時には自由な発想でデザインを考えてつくっていると、押し花には、“花のいのちを生かしながらの作品づくり”を楽しむ良さが詰まっていることを感じます。
 これからも、自然の恵みに感謝しながら楽しく作品をつくり続けたいと思っています。

(西村典子・SNIクラフト倶楽部)

『白鳩』誌No.91(2017年10月号)「つくる、祈る、日々の生活 No.15」