環境問題講演録

残された時間 -温暖化地獄は回避できるか?-(後編)

2015年4月19日  

東京大学名誉教授  山本 良一

山本 良一

地球の温暖化は、我々の予想よりもはるかに速く、且つ激しく進行しています。

例えばボリビアのチャカルタヤ氷河は、予想より6年も早く溶け切ってしまいました。そのためにボリビアは、農業用水や工業用水で大変苦労しています。その様に世界各地で、温暖化が非常に速いスピードで進んでいるのです。

気候変動が惹き起こす戦争の危機

このまま推移すると、将来は世界的な水不足や食糧不足、大量の難民の発生が起こり、武力衝突が起こることも予想されています。有名な軍事アナリストが、『気候戦争』という本を出しています。

この本によれば、インドとパキスタンが水争いをして、それが引き金となって、2035年の5月25日午前3時に核戦争が起こると書いている。まずインド側から核ミサイルを打ち込み、それにパキスタンが応酬する。そうやって互いの核ミサイル全てを打ち終わるのに一週間かかる。その核ミサイルで6億人が死亡し、その後の放射能によって、500万人が死亡すると書いているのです。

さらに2040年になると、環境破壊から中国で内戦が起こり、大量の難民がシベリア国境へ押し寄せるということも予想しています。これを一軍事アナリストの妄想だと笑っていられない状況にあります。

アメリカ軍、ロシア軍始め、各国の軍は、気候戦争の危機を明確に認識し出しています。また、面白い話ですが、イギリス軍、アメリカ軍、ドイツ軍が、環境保全の取り組みを始めているのです。

例えば、なるべくガソリンの使用量を減らして、バイオエタノールを増やすとか、中には環境に優しい武器の開発(笑)などという、変な研究開発まで始めているそうです。

最初の気候戦争は、スーダンのダルフール戦争です。20年間で年間の降水量が40パーセントも減少したために、水争いが起きた事が原因と言われていて100万人が虐殺されました。そして、最初の水争いとしては、1967年のイスラエルとヨルダンの6日間戦争がありました。

このように世界には、インドやパキスタン、バングラデシュ、中国、アフリカ、中東など、気候変動が原因で水不足や食糧不足など色々な災害を招く、ホットスポットと呼ばれる危険な所が沢山あるのです。

地球温暖化は科学的に証明されている

昨年の5月26日から28日にかけて、イギリスのチャールズ皇太子は、セントジェームズ宮殿に沢山の関係者を集めて、「気候変動は人類にとって、核戦争と同様の脅威である」という声明を発表されました。

現在の地球温暖化の原因は、太陽放射や、太陽の黒点が原因ではありません。人間の色々な活動による温室効果ガスの放出が原因である事は、はっきりしています。

世間には、地球の温暖化はCO2のせいではないと言う人がいまして、またその人達の書いた本は、よく売れるわけです(笑)。私が書いた本は売れないけれども。出版社もよく心得ていて、そういう本をどんどん出す。

しかし、間違いなく温暖化は起きています。世界の何十万人もの科学者が、それを認めているのです。その証拠に、IPCCの第4次報告書が83ページにわたり、私たちの排出している温室効果ガスが原因となり地球の温暖化が起きている事を論証しています。

勿論、科学者の多数意見が常に真実であるとは限りません。しかし我々は常に謙虚でなければならない。圧倒的多数の科学者の意見には耳を傾けて、社会的な意思決定をしなければならないと思います。

それから、氷河期がやって来ると言う人がいますけれども、IPCCの報告書によれば次の氷河期は来るとしても3万年後です。だから今は、温暖化を防止することが肝要なのです。

温暖化がもたらす各方面への深刻な被害

現在、世界の気候の状態を見ますと、豪雨が増え始めています。

例えば日本でも、南九州では、毎年のように豪雨による被害が出ている。この影響は非常に切実で、米の品質が落ちているし、豪雨による深層崩壊も起きています。しかし一方、東京など関東では、この夏、降水量が非常に少なくて、熱中症による死者が出た。降水量のアンバランスが惹き起こす被害というのも常態化してきている。このように温暖化の影響は様々な所に現われて来ています。

それに伴って、損害保険会社が大変な被害を蒙っているわけです。気候変動による様々な被害に対して、損害保険会社は毎年莫大な保険金を支払っています。それに耐え切れずに会社が倒産するか、もしくは、被害の大きい地域に対しては、保険料の大幅な引き上げを求めるか、その選択を迫られているというわけです。

もう損害保険自体を引き受けられないということになれば大変な事になります。つまり地球の温暖化は、そのような切実な問題とも結び付いているわけです。

また、北海道でコシヒカリが穫れるようになり、佐渡島ではりんごとみかんが両方穫れるようになってきている。

さらにまた、海面が上昇していて、40年後には50センチ上がる可能性があります。21世紀の末には、1メートルから2メートル海面が上昇すると考えられています。

今の政治家の無能さを考えると、なるべく海岸から遠く離れた所に住んでいただきたい(笑)。海岸線とか、川筋などに不動産を所有している方は、なるべく早く処分をして(笑)、安全な所に住んでください。

私は鉄道運輸機構とか道路公団など、いろんな所に行って講演をしておりますが、絶対に海岸線に道路や鉄道を造らないようにと言っています。例えばJR東海には、中央リニアは地下を真っ直ぐ通すように進言しています。何故ならば、これからは風雨が強くなりますから、新幹線が毎日のように緊急停止することになるかも知れない。そういうことを考えれば、中央リニアはどんな天気の時でも動けるようにする必要があるからです。

我々は、もうどんな気候変動の下でも生きていけるように、地球温暖化対策シェルターを考えておかなければならない所まで来ているわけです。

さらに日本では、これから人口がどんどん減少する。2050年までに、8000万人から7000万人まで減ると予想されています。そうすると、農村とか山村とかの危ない所に少数でパラパラ住んでいるのは、その人達を守るのに非常に効率が悪いわけです。だから皆で寄り集まってコンパクトシティにして、強固な防御の形態をとる。これがこれからの政治家に求められてくるのではないかと思います。

温暖化地獄を回避するためには

私はアル・ゴア氏とも、地球の温暖化地獄を回避するために、なんとしても2℃以下に抑えなければならないという話をしています。

何故かと言いますと、2℃を突破すると、先程お話したように、水不足、マラリヤなどの病気、食糧不足による飢餓が起きて、何十億という人々が、これらのリスクにさらされてしまうからです。

さらに、他の生物種の事も考えなければなりません。20世紀に絶滅した生物種には、我々はもう会うことができません。今日1日で400種類が絶滅し、2050年までに100万種類が絶滅すると考えられています。これを放置しておくと人類にも大きな影響が出てきます。だから我々は生物の多様性を守るために、その保全をやらなければなりません。

それで、2℃を突破する地獄の入り口まであと何年であるかという計算をすることができます。これから1兆2千億トンのCO2を放出すると、2℃を突破する確率が50パーセントを超えますから、これがポイント・オブ・ノーリターン、帰還不能地点となるわけです。簡単に計算しますと、早くて2032年の5月12日になります。だからあと20年で地獄の入り口まで行くと予測されるのです。

問題の解決には清水の舞台から飛び降りることが必要

では、どうすればこの問題を解決できるか? といえば、それは1990年の世界の温室効果ガス排出量を100パーセントとすると、2050年までに50パーセントまでに下げないといけない。そして、21世紀の末までには8割削減する。つまり、低炭素革命をやるしか2℃以下に抑える方法はないわけです。

私は最近、「清水の舞台から飛び降りなさい」と言っています。清水の舞台から下を見ると、千尋の谷とは言わないけれども、飛び降りれば必ず死ぬほどの深さです。

この場合、清水の舞台というのは、現在の化石燃料を主にした我々の生活、文明のことです。そこから下を見るとですね、無数の観音様がいらっしゃるわけです。そこへ我々は飛び降りる、即ち低炭素革命をやれば助かる。しかしやらなければ2℃を突破して、地獄の1丁目に入って行く。一日も早く低炭素革命をやるしかないのです。

だからあと5年も経てば、ガソリンで動く乗用車は全面禁止で電気自動車に変える。住宅はゼロエネルギー住宅で、新築の場合はカーボンマイナス住宅を義務付ける。電化製品は、一番エネルギー効率の良い物を購入する事を義務付ける。金がなければ政府が出す。このようなことを迅速にやれるかどうかが問題で、これをやるのは政府と国民なのです。

2℃ターゲットを67パーセントの確率で守るためのCO2の許容排出量は7,500億トンになります。これを世界人口68億人で割りますと、我々1人あたり110トンしかもう排出できません。日本人は年間1人あたり10トン排出していますから、あと11年で自分達が使えるCO2の排出量を使い切ってしまう事になります。

ですから生長の家の皆さんが、ゼロカーボン運動をしておられるのは、極めて科学的に正しい事をやっていらっしゃるわけです(拍手)。皆さんが本気でゼロカーボン運動に取り組む事は、本当に素晴らしいことなのです。

このまま放って置くと、2060年には2℃どころか4℃を突破する。これはイギリスが発表した去年のデータですね。世界の平均気温を10年ごとに平均すると、世界の気温はどんどん上がっています。

このまま行くと、世界中で環境難民が2億から7億人出るといわれており、2009年に飢餓人口は10億人を突破しました。

グリーンランドの氷床は、年間1,790億トンぐらい溶けていると言われていますし、海はどんどん暖まっています。また、アマゾンの熱帯雨林は、あと20年で6割が消滅する可能性がありますし、シベリアのツンドラが溶けて、メタンが出ている。

また、海はCO2を吸収するために、海洋の酸性化が大きな問題になっています。それでこの北極海氷ですね。科学者は9月の北極海氷は、ゆっくり減少すると考えていましたが、人工衛星での観察によると、猛烈な勢いで減少し始めている。2007年には30年前と比べて4割減少し、2008年には体積が最少になったわけです。

アメリカのNASAとワシントン大学の共同研究によれば、北極海氷は死のスパイラルに入っていて、2015年に夏の北極海氷は消滅すると言われていますし、2016年±3年で消滅する可能性があるという研究もでています。そうなりますと、氷が消えて太陽光線が反射されませんから、温暖化が加速するわけです。

世界の130名の科学者のアンケートによりますと、世界の平均気温が上昇すると、北極海氷の消滅の他に、グリーンランドの氷床が大崩壊を始め、北方の森林が大幅に枯れ出し、南極の西側の氷床が大崩壊を始め、アマゾンの熱帯雨林が枯れ出すと考えられています。だから2050年までには3℃上昇してアマゾン、熱帯雨林が枯死し始める地獄の5丁目ぐらいまで行くだろうと、私は言っているわけです。

もう時間がないから申し上げますが、歴代総理大臣に、私はこれらの事を進言して来ました。その中で、安部、福田、麻生、それから私の大学のクラスメートだった鳩山の各総理は、温暖化問題で素晴らしい決断をされたが、菅総理は果たしてどうなのか分かりません。

とにかく日本には温暖化問題を解決するための世界一優れた技術があります。だからそれらを総動員して、迅速に低炭素革命をやるしかない。

生長の家では「常に光明面を観よ」と良い事を説いていらっしゃるが、温暖化に対しては、正しい恐怖心を持って(笑)、断乎として、低炭素革命にご協力いただきたいと思います。

これをお願いして、私の話を終わります(拍手)。


コメントを残す