山本

環境問題講演録

残された時間 -温暖化地獄は回避できるか?-(前編)

2015年4月19日  


東京大学名誉教授  山本 良一

山本 良一

皆さん今日は(拍手)。

今日は大変暑い中を、沢山の方に来ていただきまして、誠にありがとうございます(拍手)。

私は、3000の団体が加入しております、日本の「グリーン購入ネットワーク」の名誉会長を5年前から務めています。

具体的に申しますと、エコプロダクツと言いまして、環境に負荷の掛からない商品やサービス、エコカーとか、省エネの製品の購入、太陽光発電住宅やグリーンなビルディングなどの普及に努めているのです。

私はまた、この国際的な組織の会長も務めておりまして、このような運動をもう20年間続けています。

『今こそ自然から学ぼう』に感動

グリーン購入は、温暖化が激しく進んでいる現代においては、単に市場をグリーン化するだけでなく、環境文明における礼儀作法であり、道徳的な義務であり、信仰告白でさえあると、私はニュースレターに書きました。

そのような時に、栄える会の神谷名誉会長から、谷口雅宣総裁が書かれた『今こそ自然から学ぼう』という本をいただきまして、大変感動いたしました。その中の一説を読んでみます。

宗教というものは、人が死んだり生まれたり、あるいは何か切羽詰った人生の困窮時など、日常生活と少し離れた領域を担当すると考えている人には、毎日の買い物の中に宗教が関与してくるなどと私が言えば、きっと目をむいて驚くかもしれない。しかし、翻って考えてみるならば、我々は「信じる」ものを購入するのである。商品でもサービスでも、我々が金を出して購入するのは、その金額に相当する価値を、その商品やサービスが与えてくれると「信じる」からそうするのである。(同書・20頁)

このように書いてありまして、私は大変驚いたのであります。

この本が出版されたのは、今から8年前の2002年であり、しかも既に現在のグリーン購入の精神が書かれていたからであります。

私は、谷口総裁がこの様な認識をされていることに深く敬意を表しております。(拍手)

ラブロック博士のガイア仮説

私は今日、2冊の本を持ってまいりました。後でご紹介いたしますが、もう人類はですね、覚悟を決める時が来たと思うわけです。

今年の異常な暑さは皆さん体験されたと思いますが、これは今年限りで終わるものではなく、これから益々気候の異変というのはピーク化して行くと考えられます。それを人類はどうやって乗り越えるか? その議論が3年前から始まっているわけです。

それで1冊目のこの本は、「地球を如何に冷やすか」という事が書いてある本なのですが、著者は、NASAに勤務していた大気学者であり、科学者でもある、イギリスのジェームズ・ラブロック博士が書いたもので、この本の中には、ラブロック博士の興味深いエピソードが紹介されています。ラブロック博士は、母なる地球に棲んでいる凡ゆる生命体や環境を全部ひっくるめて、それが1つの超生命体のように振舞っているとして、ギリシャ神話の慈母神の名前を採って、ガイアと名付けたことで有名です。

かつてオックスフォードでマザー・テレサの講演会があり、「貧しい人、病める人、空腹な人々の世話をしなさい」とマザー・テレサが言われた。英語で言うと、「To take care of the poor」ですが、その後、「地球の世話は神に委ねなさい(Leave God to take care of the Earth)」と言われた。するとラブロック先生は突然立ち上がって、「聖女様、私はあなたの意見に反対です」と叫び、「私達人類が、地球を尊敬せず、地球の世話もしなければ、結局地球はガイア(超生命体)の役割として、我々人類をこの地球上から抹殺するでしょう」と述べたということが、この本に書いてあります。

地球上には、様々な生物種が、限りある生命を与えられて生きている。それらの生物種が棲んでいる地球が、温暖化という環境破壊によって、今まさに崩壊の危機に瀕しているわけです。

地球温暖化による世界の様相

現在、1日に全世界で、22万人の人口が増えています。さらに人類は、石油や石炭、天然ガスを1日に1億5000万トン掘り出して、それを燃やしているために、1日に8000万トンの二酸化炭素を空気中に放出している。これはもう恐るべき事です。

例えば今年のロシアは、1000年に1度という猛暑に襲われました。8月には、38.7℃を記録しています。それでロシア西部では、大森林火災が発生しました。こういう未だ誰も経験しない事が起きている。

さらに中国では、西部と南部が大洪水に見舞われて1億1500万人が被災し、パキスタンでは48時間で300ミリの雨が降り、2000万人が被災し、400万人が家を失い、2000名の死者が出たと報じられています。

これらの原因は、地球温暖化の進行以外に考えられないのです。

宗教界への期待

これまでの宗教は、人間の生老病死を説き、如何に生きるべきかを説いて来たわけですが、もうそれだけでは不充分なのです。多くの生物種が絶滅することは、我々の生活にとっても、多大な影響があり、生きる基盤を失うことに繋がります。

名古屋でも来月と再来月、これらの生物を助け、保全する事がどうしても必要だとして、その対策会議が開かれます。

私は科学者であり、この20年間、日本のグリーン産業をリードして来たことを密かに自負しているわけですが、ここに至って宗教界の活動に物凄く期待しているわけです。

政治家がなかなか温暖化の解決に向けて手を打たない。政治家には期待ができない状況です。そこで宗教界に、その存在意義を発揮していただきたいと願っているのです。

例えば天台宗と真言宗の座主が、揃って新幹線に飛び乗って菅総理大臣に面会に行き、環境税を導入して、環境に良い産業や商品の普及を全力を挙げてやりなさいと、大喝してほしいわけです。

そのような中で、生長の家では、ゼロカーボン運動に取り組まれるなど、教団を挙げて環境問題、生命倫理の問題に取り組んでおられる。大変素晴らしいと思います(拍手)。

やっと他の宗教団体もいろいろな教団が環境マネジメントに取り組まれるようになり、喜んでおります。

問題は時間がないこと

しかし問題は、のんびりやっている時間がない事なのです。早ければ後5年で破局が来るかもしれないのです。

今年の環境白書に、「地球の外から人類の1日を観察すると」というテーマでいろいろな事が紹介されています。

今の世界の状態を紹介しますと、1日に800万トンの食糧が生産されている。20万台の自動車が生産されて、12万台が廃棄されている。800万バレルの石油が使われ、8000万トンのCO2を排出する。3500万トンの廃棄物が出され、400種類の生物が絶滅している。

このような状態です。環境破壊の原因の1つに、猛烈な経済成長があります。

経済成長による環境破壊

特に、アジア太平洋、中国、インド、メキシコ、南アメリカ、ブラジル、東欧圏などの経済成長が著しい。その結果、1980年に年間400億トンだった資源消費が、2005年には580億トンになり、2020年には800億トンになると予想されています。

経済成長が著しい国々では中間所得層が増えています。例えばインドは現在のところでは1億人ですが、これからどんどん増えてくると予想されます。中国は現在の1億人から7億人に中間所得層が増える見込みです。

今までの数ヵ国の先進国の消費生活に加え、今後は今述べたような国々が先進国並みの消費生活を送るようになり、物凄い量のエネルギーと資源と食糧が生産され、莫大な量のCO2と廃棄物が放出されて環境破壊が進んでいきます。

誰が考えても、こんな事が続けられるはずがない。科学者は20年以内に問題の解決をしなければならないと言っているわけです。

温暖化は急速に進行しています。どれほどの温室効果ガスを出しているかと言いますと、2004年のデータでは490億トン出している。1997年の京都議定書では、各国が協力して2012年までに1年間に10億トンのCO2を削減しようと約束しました。しかしこれでは殆んど問題の解決にはなりません。

温暖化によるハリケーンの強大化も起きています。2005年、ニューオーリンズに上陸したカトリーナは、最大風速が90メートルでした。この年のカトリーナ、リタ、ウィルマの3つのハリケーンによる損害保険金の総額は、なんと8兆8千億円にのぼり、4つの損害保険会社が倒産しました。損害保険会社の倒産は、今後の大きな問題になってくると思われます。

今後はハリケーンの数は増えないかもしれないが、その勢力は強大化すると予想されています。ハリケーンの進路がフロリダ半島を横切って、メキシコ湾を横に進むと、もっと大変な事になる。石油を掘削するための大きな構造物であるリグがなぎ倒される。

アメリカはメキシコ湾を横切る強大なハリケーンを恐れています。ビルゲイツは、450万ドルのポケットマネーで、ジオエンジニアリングの研究を支援していますが、彼自らがハリケーンを弱める特許を5つ申請しています。

例えば海上に2000隻程度の船を並べ、冷たい海水を汲み上げてハリケーンの力を弱めるなどです。ビルゲイツが考えたビジネスモデルは、フロリダ半島に別荘を構えている金持ちを対象に、いざという時の保険料として集め、その保険料を資金としてハリケーンを弱める対策を実施する。これが1つのジオエンジニアリング、気候工学なのです。

温暖化地獄は既に始まっている

2005年には南半球のブラジルに初めてサイクロンが発生し、人々を驚かせました。2003年には、ヨーロッパを熱波が襲い35000人が熱中症で亡くなりました。日本でも今年、既に300人が亡くなっています。しかし2040年に入ると、年間平均気温が、2003年の夏の熱波の気温と同じになると予測されています。さらに2060年になると、その熱波の夏の気温すら、最低気温になるだろうと。つまり我々は、既に温暖化地獄の1丁目に入ろうとしていますが、それが進んで地獄の5丁目あたりに行くのではないかといわれているのです。

そもそも地球の平均気温というのは、地球の全表面の年間平均気温ですが、地球表面全体で平均し、それから年間平均気温だから、1年を通して平均をした気温なのです。今14度ぐらいです。平均した地球の表面温度を、30年間とか50年間を通してみると、その地球の表面温度が増加していることが分かります。それをもって、地球が温暖化しているといっているのです。

だから地球の温暖化は、統計的平均を採って初めて解るので、名古屋の熱波が温暖化のせいかどうかは、統計的に考えなければ解らない。

明治時代に比べると、0.8度気温は上っています。それが2℃上がったらどうなるか? 恐らく地獄の入り口だろうと。だから国際社会は、「2℃以下に、地球の表面温度を抑える」という事を初めて受け入れたわけです。これが重要なポイントなのです。

このまま何も対策を執らずに放っておくと、後20年で地球の表面温度は2℃上がる確率が50%を越え、50年後には4℃を突破してしまうだろうと言われています。

ですから2℃に抑えられるかどうかは、極めて大事なことになって来たわけです。

国際社会は、4℃上がる事も有り得ると考え始めています。そうなると、世界の農業は壊滅的な被害を受けます。

ですから昨年9月には、オックスフォード大学で、世界で初めて地球の表面温度が4℃上がった場合の国際会議が開かれ、来月スエーデンでは「4℃に上った時に、農業をどうするか」という会議が開催されます。

それと、政治家に対する物凄い不信感が広がっています。結局、重要な政策を決められないのではないかという不信感から、有効な対策が打てなければ、我々は遅かれ早かれ、非常事態に直面してしまう。その時どうするかという事が、科学者の間でこの3年間、激しく議論されて来ているわけです。

マサチューセッツ工科大学で昨年、国際シンポジウムが開かれました。そのポスターを見ると、地球表面温度のサーモスタットに人類の手が掛かっているわけです。我々はもう地球表面の気候を操作するぞ、そうしなければ間に合わないという物凄い危機感が今出ているわけです。

この8月に国際的なニュースが飛び込みました。グリーンランドの氷河から、250平方キロメートルという巨大な氷山が分離して大西洋を流れ始めていると。さらには2007年に北極の海氷の面積が、30年前に比べて、40パーセント減ってしまったが今年も元にはもどらなかった。これは世界の40の大学のスーパーコンピュータを使った計算でも解らなかった。それで衝撃が走ったわけです。

つまり現代のクライメットサイエンス、気候科学では充分予知できていない。ロシアの熱波もそうです。予測できていなかった。私は科学者として告白しますけれども、現在の我々のスーパーコンピュータによる気候のモデルでは、緩やかな温暖化しか予測できていない。ところが現実の地球は、もっと激しく変化しているということが解ったわけです。(次号へつづく)


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