村上

繁栄ストーリー

日本文明は世界を救う “21世紀は日本の出番”【前篇】

2015年4月19日  


筑波大学名誉教授  村上  和雄

村上和雄

皆さん、こんにちは(拍手)。

「建国記念の日」の佳き日に、ここで講演させていただくことを大変ありがたく思っております(拍手)。

昨年の11月6日と7日の2日間、チベット仏教の最高指導者で、ノーベル平和賞を受賞されたダライ・ラマ法王と日本の科学者の対話集会を行いました。その実行委員長を務めまして、なかなか大変でしたが、お陰様で大成功したと思っております。その時にダライ・ラマ法王は、「21世紀は日本の出番だ」と何度もおっしゃいました。それは後ほどお話ししたいと思います。

目覚ましい遺伝子研究

最近、遺伝子の研究が非常に進みまして、大変面白いことが解りだしました。

それは、先ず多くの遺伝子は眠っており、本当に働いているのは、計算上2パーセントぐらいだということです。しかし後の98パーセントは何をしているのか、まだよく解らない。その98パーセントは無駄な動きをしている事はないと思いますから、何かしているのでしょう。しかしまだ解らない部分が沢山残っている。それと遺伝子はオンとオフを繰り返している、ということです。

だから遺伝子というのは一般に考えているよりも、ダイナミックにしなやかに働いている。そうすると、眠っている善い遺伝子のスイッチをオンにして、起きている悪い遺伝子、例えば病気になる遺伝子のスイッチをオフにする事ができれば、私達の内なる可能性は何倍にもなるという事が、遺伝子の言葉で語られようとしている。これは大変エキサイティングな事です。

「心と遺伝子研究会」を設立

そういう事を私は見聞きしておりまして、大学を退官してから、「心と遺伝子研究会」を作りました。心の働きが、遺伝子のオンとオフにどういう影響を与えているのかという事を研究するためです。

心が身体に大きな影響を与えているということは、これはもう間違いないわけであります。例えば好きな人と会う時とか、好きな仕事をする時は全然疲れないですね。ところが嫌な奴に会う時は、もう会う前から疲れます(笑い)。帰ったら寝込むぐらい疲れている(笑い)。何でこんな差が出るのか。心が身体に大きな影響を与えているからです。

しかし「身体のどこに」というのはまだよく解っていない。その仕組みについては、少しずつですが解りだしています。

例えば、運動が身体に良いというのは皆知ってます。では運動するとなぜ身体に良いのでしょうか?  それは運動をすると、遺伝子のスイッチがオンになるからです。

だから少し身体の悪い人、軽い病気の人は歩いた方が良いのです。認知症の方も歩いた方が良いと言うお医者さんもいます。たまには帽子をかぶって歩きなさいと。何故かと言えば、ボケ防止だからだと(笑い)。これは医学的にはまだ証明されてはいません(笑い)。

それから食べ物も遺伝子のオンとオフに大きな影響を与えます。身体は物凄い勢いで入れ替わっています。だから常に新しい食べ物が必要なのです。

最近面白い話を聞きました。

今、日本は原発の被害で騒然としていますが、もっと大きな被害が終戦間際に起こりました。広島と長崎への原爆の投下です。沢山の人が被爆しました。しかし後に解った事は、殆ど同じ場所にいながら、被爆の程度が非常に重い人と、軽い人があるということです。

何故か? と調べたら、軽い人は味噌汁を沢山飲んでいたという事が解ったのです。かつてチェルノブイリの原発事故の時、ヨーロッパは日本の味噌を、大量に輸入したといわれています。

日本の味噌が何で良いのか?  これは、放射能の被害に“貰い泣き効果”というのがある。貰い泣きというのはどういう事かと言うと、例えば100万個の細胞を集めて来て、1個だけを放射能で狙い撃ちする。するとその細胞は駄目になる。ところが全然被爆をしてない周りの細胞もおかしくなるのです。これを「貰い泣き」と言っているのです。バイスタンダー効果と言います。

何で放射能を浴びていない細胞までおかしくなるのか?  放射能が当たった細胞の中から活性酸素を捕まえて来ますと、これが悪さをしていることが原因だと解ったのです。だから活性酸素を捕まえればいい。それには発酵食品が非常に有効だということです。日本食というのはそういう点で素晴らしい食品なのです。

さて、人間には心がありますね。心は何処にあるのか解りませんがあるのは間違いない。心がないと思っている人はいません。そうすると心の持ち方も、遺伝子のオンとオフに影響を与えるのではないかと思い、「心と遺伝子研究会」を作って約10年になるのです。

笑いは人の魂を救う

そして研究会で次のような実験を行いました。2つのグループに協力をいただき、1つは若い学生さんで、もう1つは糖尿病の患者さんであります。本日は若い学生さんがあまり見当たりませんので(笑い)、糖尿病患者さんの話をさせていただきます(笑い)。

その実験のために、吉本興業と組む事になりました。私は吉本さんと組むとは全く予期しませんでした。しかし私共と吉本の出会いは偶然ではないのかもしれません。

なぜ偶然ではないのかと言うと、私は「科学は知的なエンターテイメントだ」と思って来たからです。吉本さんのエンターテイメントが知的かどうかという事に関してはコメントを控えますが(笑い)。

科学を進めるには地味なコツコツとした努力が必要です。人間にとって解らない事が解るというのは、大きな楽しみなんです。科学をやっていると、一生のうちに何度か「こんな事を私共が見つけた」という瞬間に出くわします。この時の喜びと感動はもう飛び上がるほどのものです。その夜は嬉しくて眠れない。身体がガタガタ震え出すと言いますが、そういう感動と喜びがあるのです。

それで吉本と組んで実験を開始する事になりましたが、直ぐに解った事は、笑いは科学にし難(にく)いという事であります(笑い)。若い人と私共は笑う所が違います。私は余りテレビを観ませんが、たまに吉本の番組を見ても面白くない。下らんなあと思ったり、腹が立って来たりする(笑い)。それから東京の奥さんと大阪のおばちゃんは、ちょっと笑う所が違います(笑い)。これをどうして科学にするのということを考えまして、2日に分けて実験をしようという事になりました。

前日は糖尿病患者さんに集まっていただき、大学で軽い昼ご飯を食べて貰います。その後で直ぐ大学の先生の講義を聞いていただくのです。「糖尿病の仕組みについて」という講義であります。

皆さんも大体ご存知だと思いますが、大学の先生の話はあまり面白くない。解りにくいし冗談もない。特に下手な講義をお願いした訳ではありません(笑い)。いつも通りの講義を40分間やっていただき、直ぐに血糖値を計りました。食前に1回計っておいて、講義を聞いた後でまた計り、前後を比較しました。

そうしたら何と、つまらん講義を聞いたら平均血糖値が123ミリに上がりました。これは予想を超える数値でした。だから血糖値の高い方は、大学の先生の講義は聞かない方が(笑い)健康に良いという事であります。これが前日です。

その翌日は、その講義の時間に同じ人達に漫才を聞いて貰ったのです。前日は講義、翌日は漫才。後は全部一緒です。

吉本はB&Bというお笑いコンビを連れて来ました。その一人の島田洋七さんは、『佐賀のがばいばあちゃん』で有名になっていますが、事前に「もしこの実験が成功したら、まず間違いなく糖尿病研究の歴史に残りますよ」(笑い)と言っておりましたので、彼らも気合いが入っており、皆さんよく笑いました。その後直ぐに、前日と同様に血糖値を計りますと、前日は講義を聞いて123ミリに上がった血糖値が、笑いでは77ミリに落ちたのです。講義ー笑いは123-77=46の差が出ました。

この実験の計画を糖尿病の専門医に相談に行った時には、殆どのお医者さんがそんなアホみたいな実験は、マトモな医者はしません(笑い)と言われました。しかし、このデータを見せると態度が変わりました。「これは面白くなりました。直ぐに発表しましょう」という事になり、アメリカの有名な糖尿病学会誌に論文として掲載され、その後ロイター通信や『ニューズウイーク』で、アメリカのマスコミが世界に伝えてくれました。私共の研究はそこから少しずつ世界から注目されるようになったのです。

これが進んで行きますと、薬の代わりにお笑いのビデオを出すような病院が出てくる。薬の代わりにと言うとお医者さんを敵に回しますので、「薬と共にお笑いビデオを」と言っておきます(笑い)。とにかく楽しい治療が始められると思います。

本日、薬品会社に勤めている方がおられたら非常に言いにくいのですが、日本人なら誰でも知ってる大手製薬会社の会長は殆ど薬を飲まないのです(笑い)。俺は自然治癒力で治す(笑い)、お前たちは薬を飲めと(笑い)。

今アメリカでは、年間約30万人の人達が、薬の害か医療ミスで亡くなっています。アメリカの死亡率のトップは、癌でも高血圧でも心血管でもなくて、薬のミス、あるいは過剰投与なんです。

しかし、笑いには副作用はないと思われます。笑い転げて死んだという報告は聞いたことがありません(笑い)。お腹が痛くなるとか、口を大きく開け過ぎて顎が外れたとかはありますが(笑い)。私共は、この笑い療法を広めて行きたいと思っています。今の西洋医学を勿論否定はしませんが、それを補うものになれないかと思っているからです。

こういう話をしますと、糖尿病患者さんからいろんな質問が来ます。一番傑作だったのは、「B&Bという薬は何処で売っていますか?」という質問です(笑い)。冗談かと思ったら、本気なんです(笑い)。如何に人の話をチャンと聞いていないかということです(笑い)。

私はその辺りからお笑いに嵌(はま)りだして、今は「日本笑い学会」に加盟しております。興味のある方はホームページで調べてください。ふざけた学会だと思ったら、これが真面目な学会なんです。1,000名を超える会員がいらっしゃる。

笑いはどの民族の神話にも出てきます。ということは神様や仏様も笑っておられたのかもしれない。

午前中に神話の話がありましたが、日本の神話で笑いが出てくるところがあるんです。知っている方、ちょっと手を挙げてみてください。さすがにおられますね。殆どの会場では誰も手を挙げない。「神話を忘れた民族は滅びる」と、アーノルド・トインビーという人が言っております。だから日本は滅びるかもわからない、このままでは。

日本の神話で笑いが出てくるのは、天照大御神の岩戸開きです。天照大御神は太陽の神であります。その弟の須佐之男命が乱暴者で、困った大御神は岩戸の中に隠れられた。太陽の神が隠れられたという事は、太陽が消えたという事です。これは一大事です。

だから八百万の神々が高天原に集まられて、お祈りをする、お勤(つと)めをする。そして大宴会をやったんです。昔から神様は飲んだり歌ったりするのが好きみたいで、大宴会のハイライトは、美人の神様のほぼ全裸に近いストリップショーです(笑い)。そう古事記に書いてあるんです。昔の神様はおおらかですね。

それで天照大御神は、神々が大笑いをしているので、「何事が起ったのか」と思って岩戸をちょっと開けられると、その隙に力持ちの神様が、岩戸をグッと開けて、陽がまた昇ったという神話です。

これは事実ではないかも知れません。しかし私は、神話というのは事実じゃないかも知れないが、何らかの“真実”を伝えているのではないかと思っています。何の“真実”かというと、大ピンチの時にも笑いを忘れるな、という事ではないでしょうか。本当に人が困った時には、笑いが必要なのです。

この前、拉致被害者であった蓮池薫さんの話を聞きました。蓮池さんも笑い学会の会員なんです。それであの重苦に耐えられたのは、笑いがあったからだとおっしゃった。最初は笑うどころではなかったが、笑いがないと人間は長いこと重苦に耐えられないと。

だから笑いは吉本流の笑いから、魂を救う笑いまである。そういう事で今日本では東日本大震災以降、「頑張ろう日本」という標語が飛び交っていますが、私はそろそろ「笑顔で行こう日本」が必要なのではないかと思っているのです。

私はこれまで沢山の素晴らしい人達と出会いましたが、例えばダライ・ラマ法王は、笑顔が素晴らしい。話の途中でよく笑われます。一緒に写真を撮る時には私と肩を組んで、耳をコチョコチョとこそばすんです(笑い)。「お前は笑いの研究をしているんだから、もうちょっと良い笑顔を作れないか」と。法王というイメージとは全く違う。

しかしこの人はチベット問題では50年間命懸けであります。だから私が彼に付けたあだ名は、「人生は、ニコニコ顔で命懸け」。良いでしょう。

人生において何かに命を懸ける事ができるのは幸せであります。生きているという事は、ただ単に命を永らえる事ではない、何かに命を懸けている時に人は美しく燃え上がると言った方もあります。とにかくそういう事で、深刻な時にも笑いが大切だということです。

さて、なぜ私が笑いの研究から入ったかと言うと、今、日本はストレス社会でありまして、ストレスが病気の原因になるというのはよく知られています。そこで私は発想を変えまして、そのストレスは悪いストレスでしょうと。ストレスと言うと悪いイメージですが、悪いストレスがあったら良いストレスもあるはずだと。悪いストレスで病気になるんだったら、良いストレスで病気が治るかもしれないと考えたからです。

悪いストレスは実験で簡単に解ります。ネズミもいじめたら胃潰瘍になる。しかしネズミを喜ばすというのはなかなか難しい(笑い)。私共は「笑うネズミの研究」をやっておりまして(笑い)、この2月25日に、「笑うネズミ」で博士号が出ます。

どうやってネズミを笑わすか。本当に笑っているかどうかはネズミに聞いてみないと判りませんが(笑い)、ネズミをコチョコチョッとこそばすんです(笑い)。

ネズミがネズミ語で気持が好いって言っている実験を、真面目にやっているんです。気持が良い、快いと、50キロヘルツという超音波を出すんです。これを測って見るのです。気持が良いと50キロヘルツで、気持が悪いと20キロヘルツ。そのように超音波を測っているのです。ネズミが気持が良いと言っているかどうか、もっとしてくれと言っているかは解りませんが(笑い)。

しかし、もうそろそろ吉本は卒業して、もう少し高尚な事をやろうと思っています(笑い)。例えば感動とか感謝ですね。祈りまでが私は遺伝子のスイッチをオンにするのではないかと思いだしたのです。

できれば今年から、「祈りと遺伝子」という研究に乗り出そうと思っています。ポジティブな思いはポジティブな遺伝子のスイッチをオンにして、怨みとか悩みとかネガティブな遺伝子のスイッチをオフにする。この事を何とか科学的に実証して行きたいと思っています。

研究には「志」が大切

私は63歳で大学を卒業いたしました。定年で退官したのです。その時、「私は63歳で大学を卒業した」と思ったのです。何故かと言うと、18歳で大学に入って63歳まで大学しか知らない。もう落第に落第を重ねて、やっと63歳で卒業した。だから「私の第2の人生はこれから始まる」と思ったのです(拍手)。私自身の人生を通して、心が遺伝子の働きに影響を及ぼすと言う事を、自分で体験してみたいと思ったのです。

何をやるかは決めていませんでしたが、しばらく経って新聞を読んでショックを受けました。「アメリカが、ヒトに続いてイネの遺伝子の暗号の解読に乗り出す」と書いてあったからです。

私はショックだけではなく、「これは許せん」と思いました。私は医学部の世界に長いこといましたが、出身は農学部なのです。何でヤンキー如きにイネまでやられるのかと思ったのです。

何でアメリカがそんなにイネとかコメに熱心なんですかと聞かれて困りまして、多分米国(べいこく)だからでしょうと答えましたが(笑い)。

アメリカの凄い所は、自分達はあまり食べないけど、米の研究をやる。何で米か?  米は世界の主食だからです。30億以上の人が、米を主食にしている。しかもそういう国の多くは人口が爆発的に増えている。毎年1億人ですから日本の人口に匹敵する人口が毎年増えている。

そうすると21世紀の中頃には、恐らく90億を突破するんです。その時に充分な食糧があるか、これは深刻な問題です。

21世紀の最大の問題は、環境問題ですね。しかし食糧問題もこれは決して疎(おろそ)かにできない。何億人という人が栄養状態が悪いのに、貧しい国で人口爆発が起ったらどうなるか?  そのためには情報を握っている国が強いのです。

また、なぜ米かというと、小麦とかトウモロコシとか主な穀物類は、全部稲が基なんです。だからイネの遺伝子暗号を解読すると、主要な穀物の情報が解る。これからの科学は、情報合戦、情報を握る国が強いのです。

アメリカは世界食糧戦略として、イネの遺伝子暗号を解読する事にしたなと思いました。私は日頃は気が弱いのですが、この時ばかりは、「よし、これは日本のためにやってやろう!」という気になりました。

しかし大学を辞めていますから、名誉教授というのは、何の実権もないんですよ。名誉があるだけで(笑い)。だから実験室が大学にない。大学は使えない。スタッフもいない。あるのは“志”だけです。

しかし、こういう時に助けてくれる人が出てきまして、総理官邸に行こうと言う。総理官邸なんて行ったことがない、研究に没頭していたから。それから自民党の政調会長に会おう、中曽根総理にも会おうと言ってこられる。そして、そこで訴えなさい、このままでは日本はイネの遺伝子の暗号解読でアメリカに完全にやられます、やられていいんですかと。少しオーバーに言えというから、オーバーに言いました。

すると、イネの遺伝子の解読は日本でやるべきだと皆さんが言われる。日本人が稲作をして来たという事が、日本人の考え方、生き方に大きな影響を与えている、稲作は日本の文化の遺伝子だと。ところがその後、「しかしお前、これからでも勝てるのか?」と聞かれるのですね。

こういう時に「勝てます」と断言するんですよ。本当に勝てるかもしれないし勝てないかもしれない。「勝てないかもしれない」という所は向こうに聞こえないように心の中で言うんです(笑い)。こういうのを私共は、「ナイト・サイエンス」と言っています。夜の科学と。

科学には昼の科学と夜の科学があるのです。昼の科学は研究論文を書いたり、講義したりして、理性的で論理的であります。しかし夜の科学は、そういうものとちょっと違う。夜の科学は感性なんです。直感ですね。それから霊感まであるんです。しかし、こういうことをあんまり言うと、私も値打ちが下がりますので(笑い)、昼は理屈に合う事をやっていますが、実は大きな発見は、殆どがナイト・サイエンスから生まれているのです。

何故なら、大きな発見は常識的ではないんです。理性や知性を超える世界。これはいけるというのは説明ができないでしょう、感性だからです。

それから「絶対やるぞ!」という私共の熱い思いです。しかも、「日本のためにやってやろう」という志がありました。それで大型の予算がついたんです。40億の予算がつきました(拍手)。凄いでしょう。

しかし苦労はここから始まったんです。お金はついたけれども、まず人がいない、それから場所がない、機械がない。全部一から始めまして、しかも混成部隊だったものですから、いろいろガタガタしまして、何度か「これはもう負けた。諦めようか」と思いました。

しかし40億のお金をつぎ込んで負けたとは言えない。科学は先陣争いでやっていますから、1位でないと後に残らないのです。2位以降はその他大勢で、「御苦労様でございました」で終わりです。だから「2位じゃダメなんでしょうか」とは決して言えないんです(笑い)。

私はもうピンチに立ちまして、眠れない夜が続きました。体重が7、8キロ落ちたのではないかと思います。私の研究人生で最も苦しかった時です。

しかし私は、自分の本には「ピンチはチャンスです」と書いているのですね(笑い)。それを思い出しました。「お前はそういう事を人様に言っているじゃないか」と。

それから私は、もう全責任を取ろうと決意しました。そしてスタッフ一人一人に思いっきりやらせて日本チーム一丸となって頑張ったんです。日本人だからイネの、コメの仕事について負けてはならんと真剣に取り組んだのです。

人類を幸せにする科学を日本から発信する

科学というのはインターナショナルでグローバルなものです。だからどこの国がやっても良いのですが、科学者にはやっぱり国境がある。どの国に生れたか、どういう文化の中で教育を受けたか、その中でどんな志を抱いたかということです。若い人も本当に頑張ってくれました。睡眠時間を削りながら。

先ず遺伝子を取り出してくる事が大変なんです。イネの遺伝子暗号は32,000個ぐらいあるんです。それを全部取り出してきて解読をする。しかもその解読が99.99パーセントの精度でなければならない。これはもう10,000個に1個の過ちも許されないという厳しいものでありまして本当に大変でした。

しかし、スタッフ全員が心を一つにして頑張ったという事と、やっぱり「日の丸を背負っている」、そういう思いがありましたので、イネの暗号解読は、日本が断然トップになったのです(拍手)。

これは、奇蹟的大逆転であります(拍手)。賢い人はこんな事に手を出さない。しかも相手が世界の研究者を相手にしても勝つような凄いベンチャー会社で、何百台という遺伝子の解読装置を揃えて大型コンピュータを入れている。普通はそんな所に勝つ訳がない。

しかしながら私もちょっとアホな所があった(笑い)。『アホは神の望み』という本を書きましたが、神様はあんまり賢いと思っている人は好きじゃないのかも知れません(笑い)。アホだけど、これだけ一所懸命やっているから応援してやろうと思われたのでしょう。

とにかく32,000個の遺伝子の暗号のうちの16,000個、半数は我がチームで解読したのです。これは私がやったと言うよりも、チームの若い人達が頑張ってくれました。日本の若い人達は白けていると言いますが、こういう場面になると凄い力を発揮するのですね。

これはもう誇りであります。時々遺伝子暗号を眺めながら、我がチームはよくやったなと思っております。これができたのは、私がやっぱり大学を退官する時に、「私の人生はこれからだ」と思った、その志があったからではないかと思っております(拍手)。これで後世に残すイネの大百科事典ができたのです。

研究を通してもの凄いことに気づく

遺伝子の世界ではもう間もなく、必要であれば自分の遺伝子暗号が、10万円以下で解るようになります。それによって、「あなたの遺伝子暗号によれば、この薬が一番いいですよ。この治療法が良いですよ」という個別化医療、あるいはオーダーメイドの医療が可能になる。そういう時代が間もなく来ます。

人の遺伝子が全部解ったのは、今から10年ぐらい前で、そのために数千億円かけたんです。それに何千人の科学技術者の英知を結集して、人の遺伝子を読み切ったのです。これは「生物学上のアポロ計画」と言われました。

今まで神様しか知らなかった事を人間が知るようになった。これは奇蹟的な事です。

しかし、それ以上にもの凄い事実に、前から私は気がついていたのです。(次号に続く)

◯「生長の家繁栄ゼミナール」(平成25年2月11日)での講演:国立京都国際会館◯

 


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