環境問題講演録

森と共に暮らす“森に生かされている人類”

2015年4月19日  

オークヴィレッジ代表   稲本 正

稲本 正

今日は森の話をしにまいりました。今、世界的に環境問題が大きく取り上げられておりますが、大変なことになっていますね。これを解決しないと、目先の1、2年はともかくとして、30年、40年レベルで見ると、本当に危ないんですよ。人間というのは自然現象でも、目の前に来てびっくりするんですね。大被害が起きた時に、慌てて何かしようとしても、絶対に間に合わない。ですから今取り組むことが大切ですね。

原子物理学者から森と共に暮らす人へ

私は立教大学で、原子物理学者として研究しておりました。その立場から申上げますと、原子炉というのは、原理的に言えば、原爆と同じなんですね。だから一気に爆発しないように、制御棒というものを造ります。これで原子炉を冷やしている訳ですが、私も研究者の頃、コンプロという機械で、原子炉の小さい元の元が、どうやったら熱が出るか、どういう状態にしたら安全かという研究をしていて、マイナス193度という液体窒素の中に入れて冷やしていました。

ある時、液体窒素に入れるのが遅れて、危ない所で間に合いましたが、大変なエネルギーですからね、教授に本気で叱られました。そういう体験を持っていると、いかに原子力というものが凄い物なんだけど、また危ない物であるかがよく解ります。

アインシュタインが原子力ってどのくらいエネルギーが出るか、計算した。それをE=mc2という式で表しました。エネルギー=質量×光の速さの2乗ということ。mは質量、重さ。重さの変化×c2、cは光速です。光は1秒間に地球を7回り半する。その数字の2乗掛けるんです。ということは約10の21乗になる。10の21乗ってどれくらいかと言うと、この机の上にある水の21乗で、地球を何個も浮かべる程の水になる。太陽系よりもまだ大きいぐらいでしょう。それくらい凄いエネルギーなんですね。

僕はなぜ森へ行ったかというと、原子力はもう危ないと解って、じゃあ安全に生きるためには、どうすればいいのかと調べたら、一番安全なのは森だと解った。

地球のシステムの中で、物事を綺麗にしてくれるのも森だと解った。森は空気を綺麗にし、水を綺麗にし、人の食べ物を作り、人に元気を与える形で、人を綺麗にする。森は本当に素晴らしいものだと解ったのです。

人間は美しい空気と水がないと死ぬ

私たち人間は、まず美しい空気と水がなければ、生きられません。人は1日に約20キロの空気と、約2キロの水と、約2キロの食物がないと生きられません。これは生きる基本ですが、そのすべてを、森が作ってくれています。20キロの空気のうち、酸素は約20パーセントですから、4キロの酸素がなければ、皆さん生きられないんです。空気中の酸素が21パーセント以下に減少すると、人の機能は衰えて、頭が痛くなります。人が吐き出すCO2を吸って、酸素を出してくれているのは森なんですね。毎日、森は人を生かしてくれているのです。

水もそうです。地球は水の惑星と言われますが、その殆どは海洋で、97.2パーセント。陸上にある淡水は、2.8パーセントしかない。そのうち、南極、北極やエベレストなどにある氷雪や、深い地下水は実際には飲めませんから、飲める淡水は0.28パーセントしかない。その綺麗な水はどこが作っているでしょう? ある時大学で学生に訊いたら、「水道局」と言うから蹴飛ばしてやろうかと思ったけど(笑)、水道水は確かに飲めますが、あれは消毒されていますね、カルキが入っている。

綺麗な水は森が作っています。しかも森の水はミネラルが豊富で、体に良い。我々の食物、米も麦も野菜も、森が作る水で作られて、口に入る。水がなければ食物が出来ません。綺麗な水があるかどうかは、死活問題なんです。

海の魚も森に生かされている「森は海の恋人」の活動

気仙沼に畠山重篤さんという、舞根(もうね)湾で牡蠣を養殖している人がいますが、この人は「森は海の恋人」というNPOを作って活動しています。彼が「海にいる魚は森と関係ないと言われているけど、ひょっとしたら関係あるんじゃないかな」と疑い始めたのは、舞根湾には北上川など幾つかの川の水が流れ入っているけど、その川が汚れると、魚が獲れなくなったり、牡蠣がどんどん死んで行く。おかしいなと思って、一所懸命に川を綺麗にしたり、山に木を植えたりすると、舞根湾の牡蠣が良く成長して元気になる。それで解った。

マグロは不思議な魚で、ひたすら海水を吸って吐きながら、物凄いスピードで泳いでいる。海水からエネルギーを貰っている。海の魚というのは、切ると赤い血が出ますね。血を作るのは何でしょう? 鉄分なんですね。鉄分がないと、ヘモグラビンが出来ない。その鉄分はどこから来るか、彼は不思議に思ったんですね。

何故なら、海の中ではすぐに鉄が欠乏する。塩水というのは、鉄を酸化させて重くして、水を下へ沈めちゃうからそのままでは魚が鉄分を取れない。だけどその鉄分を運ぶものがある。その鉄分はどこから来ているのだろうと調べた。すると森から来ていると解ったんです。

森の腐葉土がフルボ酸に変わるんです。そのフルボ酸と鉄がくっつくと、鉄分が沈まなくなるんです。森で造られたフルボ酸が水に流れて、川からズーッと海まで届いて、そのフルボ酸鉄を魚が食べているから、ちゃんと血液があるという事が解明された。

魚の餌は森が作っているとも言えます。まして地上の人間は、森によって作られる水によって、綺麗な水や食糧を与えられているし、緑のダムと言って、水を保水してくれているのも木です。

畠山さんは、23年にわたり、2万本以上の木を植えて来た。初めは漁師たちも森が海を作っているという事を信じなかったので、「木を植えよう」と呼びかけてもなかなか動かなかった。畠山さんは講演で漁師に呼びかけた。「早い話がお前らは泥棒だ。海に金払わずに魚を獲って来る。やっぱり少しぐらい返せよ。返すんだったら、山に木を植えよう」と。迫力があるから、皆聞く。今では、「木を植えない漁師は駄目だ」という常識が出来た。各地で木を植えるようになった(拍手)。凄いですよ。

日本はもっと日本の森の木を使うべき

ところで皆さん、人は1日に何本の木を必要とするか、解りますか? ただ呼吸するだけで、1人16本の木が必要なんです。文明的生活をするほど、CO2を吸収してくれる木が必要になる。現在の日本の文明的生活では、1人あたり樹木376本が必要であり、アメリカは日本の倍以上の792本が必要です。現在世界で一番CO2を出しているのは中国で、次がアメリカ、3番がロシア、4番目がインドで、5番目が日本で、ドイツ、イギリスの順番となります。でもこれを人口で割ると、日本は1人当たり出すCO2は9トンで、かなり多い。インドが1人9トン出すようになったら、地球は終わりです。

とにかく世界の化石文明を、循環文明に変えなければならない。だからオバマ大統領も、もっとエネルギーを節約し、生活全てを見直そうと力を入れるようになって来ました。

日本の問題は、有り余るほどの木があるのに、価格の問題などで77.8パーセントを外国から木材を輸入していることです。そのために手入れされないため山が荒れて、木の根が浮いて、倒れる危険があり、木も痩せている。良い山というのは、高い木も低い木もあり、下草も生えている山、そんな山は木の香りが漂い、人を元気にする。

日本が北欧の家具などを輸入すると、大西洋、太平洋の大変な距離を経て運ぶエネルギーは物凄い。豊富な材木資源がある日本はもっと木を使う必要があります。

日本の純粋な原生林は2.3パーセントしかない。杉を植えた人工林は40パーセント以上。世界の人工林の中で、全体の4割以上木を植えた民族は、日本人だけです。それぐらい手を入れて来ました。大切なのは、適度に間伐し、適度に木を使うことです。

日本の土は素晴らしく日本の緑は世界一

私は飛騨に移住してから、「ドングリの会」を作り、「こども一人 どんぐり一粒」を合言葉に木を植えて「100年かかった木は100年使えるモノに」をモットーにして商品化してきました。北海道から沖縄まで日本の森を旅し、20世紀の末までに寒帯から熱帯まで、世界の20カ所の森を旅することが出来ました。それを纏めたのが、今日お持ちした『森の惑星』という本ですが、森を知っているつもりでしたが、不思議なマダガスカルのバオバブの木を始め、世界の森は驚きの連続でした。

日本は世界の国の中で、森林面積が72パーセントのフィンランド、68パーセントのスウェーデンに次いで、67パーセントの3位で、亜熱帯から亜寒帯まで全部の種があり、高い山も低い山もある。日本は氷河期に表土が削り取られなかった珍しい国なので、様々な植物の種子があります。ヨーロッパは氷河期に削り取られたので、土は痩せていますし植物の種類も少ない。例えばカシの木でもイギリスはセシル・オークとコモン・オークの2種類しかないが、日本は17種類ほどあります。

だから日本の土は素晴らしく、植えた木はどんどん生長します。種類が多いので様々な緑があり、日本の緑は世界一美しいと言われます。アマゾンは物凄い森だけど、緑はのっぺりとしています。

アマゾンで学んだこと

私が世界の森を旅した時に、世界一と言われるイギリスの英国王立キュー植物園の園長で高名な植物学者であるサー・ドクター・プランスに会った時、こう言われました。「稲本さん、あなたは家具を造ったりしているが、幹というのは100年経つと半分死んでいるようなものだ。樹皮と葉が生きているんだよ。1000年木が立っているのも葉が物凄く良く生きているからだ。木の葉がアロマを作り、そのアロマが外敵をはねのけたり、必要な昆虫を引き寄せたりしている。それらを研究しなさい。アマゾンに行きなさい」とアマゾン国立研究所を紹介されました。そこで紹介された日系3世のニーロ・ヒグチは日本語は出来なかったけど、英語で話して、2カ月学びました。

彼によると、アマゾンのローズウッドという香水の原料になる木が、年間100トンもフランスなどに輸出されていて、絶滅しかかっているというのです。100トンのアロマを出すという事は、その1000倍の10万トンの木を伐ったことになる。とんでもない量で森は壊れる。彼は不機嫌でした。

プランス氏の話を聴いて木の新たな可能性に驚きつつ気付いた私は、アロマを作ろうと決意しました。クロモジなどから取るアロマは、人の心を落ち着かせ、その香りを嗅ぐことによって、イライラしなくなり、ぐっすり眠れたり、精神的な病、鬱病などが癒されたりするのです。これは科学的にも証明されています。日本のクロモジの木と、アマゾンのローズウッドが同じ成分(リナロール)だと解り、不思議な気がしました。姿、形も全然違うのに、木としては兄弟だったのです。人も同じではないかと思いました。茶道などで使われるクロモジが、シャネル5番で使われる香水の元になるアロマの成分を持っているのは驚きでしたが、日本の里山は世界一の生態系の豊かな温帯林です。大きな可能性が広がりました。

木の大きな可能性に取り組む

飛騨のオークヴィレッジでは、一つのお椀から大きな建物までを作っていますが、前に述べたような経緯から、「日本の森のアロマ yuica」を作り、子供達の健やかな成長に役立つ、色々な動物の名のついた積み木「森のどうぶつみき」や、あるいは「森の合唱団」という、同じ木の長さでありながら、色々の木で作られて、ドレミの音がきちんと出る不思議な木琴なども作っていて、教育の現場や家庭からも好評です。さらにグッドデザイン賞を受けた「Swallowチェア」やロハスデザイン「モノ部門」大賞を受けた、Forest Notesという、木の箱型のスピーカーなども作りました。これはマイクロフォンを森につけて、小鳥のさえずりや風の音などが、リアルタイムでスピーカーから流れて来るもので、好評です。生長の家でも裏山に付けられたらいいと思います。これを聴くと、殆どの人がアルファ波が出てゆったりした気持ちになります。

最近、前から造りたかった保育園を木造で造りました。小さい時から木の中で遊びながら育っていると、やっぱり良い子が育ちます。県の教育委員会でもやっていて、どんどん広げて行きたいと思っています。

自然から貰ったものを大切にしながら、森の贈り物を私達の生活に生かして行きたいと思います。長時間ご清聴有難うございました(拍手)。

○平成26年9月7日開催「生長の家繁栄ゼミナール(甲信越ブロック)」の講話より○

 


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