「こもれびアナザーストーリー」Vol.4

作品名『めぐる季節(刺しゅう)』
作者:andante

――今回、お話いただくのは、やさしい温もりが伝わる細やかな刺しゅうで、お住まいの八ヶ岳の四季(12カ月)を表現された andante(アンダンテ)さんです。日常の中にクラフトのヒントを見つけることができるような、andanteさんならではのお話を伺うことができました。


作品ストーリー

どのようなきっかけで、この作品をつくろうと思いましたか?

 刺しゅうを始めて一年ほどたった頃、本の図案ではなく、オリジナルの作品を作ってみたいと思うようになりました。
 絵を描くことに対して苦手意識があったのですが、小さなモチーフなら描けるのではと、自分の身近な自然を題材に選びました。
 普段の生活のなかで、季節ごとに印象に残っているものをあげていくと次々浮かんできて、その12カ月のモチーフを時計に見立ててデザインしたら面白そうと思いつき、この作品が生まれました。
 12個のモチーフは、庭や散歩道で出会う植物や生きもの、地元の産物など、どれも自分の日常生活と結びついています。

――普段の生活のなかで自然に触れられているからこそのアイデアですね。12カ月の季節と時計の時間が重なるデザイン、本当に素敵です。
 身近にある自然が美しくかわいいものなんだなと改めて感じる作品で、見ているだけでわくわくします。


材料のポイント

材料を探すときの基準や大切にしていることはありますか?

 まず、家にあるもので作ることができないか材料を探します。古着を再利用することもあります。
 ちょうどよいものがなくて布や糸などを購入する場合は、綿や麻など天然素材のものを選ぶようにしています。同じような材料で国産のものがあればそちらを選ぶことが多いです。

――家にあるもの、天然素材、国産のもの、と環境に負荷のかからないことを大切にされているのですね。

 刺しゅうの場合は絵の具のように色をまぜることができないので、糸の色数がたくさんあって見ているだけでも楽しいです。
 クラフト倶楽部に入って、ものを無駄にせず大切に使うことをより意識するようになりました。残った糸も、ごく短いもの以外は保管して使っています。お菓子の空き箱に保管していて、秘かに「宝箱」と呼んでいます。

――「宝箱」!呼び方からも大切に使われていることが伝わってきます。そんなふうに大事にされている材料でつくったら、そのモノ自体にも幸運が宿りそうです。まさに「残り物には福がある」ような♪

1)「どこにでもある菓子箱なんですよ」と話されていましたが、色別にきれいにまとめて保管されていて、大切にされていることがよく伝わります。
2)お茶のひとときに使うポットカバーに刺しゅうを施した作品。キルト芯の代わりに古い綿毛布を切って挟まれたとのこと。

3)コースターと鍋つかみは、娘さんが学校で使った巾着を再利用。

モノづくりスタイル

普段、どのようにクラフトを楽しんでいますか?

 木の食卓テーブルで、好きな音楽をかけながら作業することが多いです。
 刺しゅうをするときは、つい座りっぱなしになりがちなので、作業の途中で庭に出て家庭菜園の草取りをしたり、同時進行でお豆を煮たりして、ほどよく体を動かすようにしています。
 ときには夜、家事を終えて、時間を気にせず作品に向かうのもホッとする時間です。

――クラフトが生活の中で、リラックスすることにつながっているのですね。また、andanteさんのように、どれかひとつと作業を絞るのではなく、複数のことを合わせることで、身体にも心にもいい影響がありそうです。

1)クラフトがリラックスすることにつながる~手づくりのあたたかみと、心穏やかな時間が写真を通して、伝わってきます。
2)普段使用されている道具。刺しゅうの小物入れはご主人のお母さまからのクリスマスプレゼント。
3)お礼に、そのデザインを取り入れた刺しゅうをして、翌年のクリスマスに贈られたそうです。とても素敵な交流を感じます。

失敗は成功のもと!

ずばり「失敗は成功のもと!」と思う話がありましたら教えてください。

 刺しゅうをしている最中に一度、作品にお茶をこぼしたことがありました。半分以上できていたのでとてもショックで、どうしようかと悩みました。
 ふと、友人がブラウスのシミを刺しゅうでカバーしていたのを思い出し、私も図案を少し変え、目立たない色の糸を選んだらシミもわからなくなりました。元のデザインよりかえってよい雰囲気になり、思い出に残っています。

――半分以上、仕上げてきた時間や労力を思うと、本当にショックですね。それでも、どうにかしたいと考えたことやご友人からの知恵に、ご自身のアイデアも加わって、プラスの出来事になっていることが素晴らしいです。

左側の巣の部分にシミがあったとのこと。

刺しゅう糸の代わりに細い麻ひもを巻いてボリュームを出し、大きさを広げる工夫がなされている。刺しゅうされている植物はリネンの原料となる亜麻(フラックス)。作品はSNIクラフト倶楽部のFacebookグループ(メンバー限定の非公開グループ)でも紹介されている。

~こぼれ話~

お話ししている中で、感謝や気持ちを伝えるときにもクラフトが身近にある方なのだと感じました。心のこもった作品の数々。見ているだけで癒やされます。

1)日本ミツバチを飼っている友人に贈った麻のマット
2)家庭菜園のお野菜をくださった方へのお礼状(紙刺しゅう)


作品のここに注目

今回、展示された作品について教えてください。

 刺しゅうをしていて一番難しいのは、昆虫や動物などの生きものです。目の付け方や触覚の角度でも表情がかわるので、リスやミツバチ、チョウなどは何度もやり直しました。それだけに愛着があります。
 8時の位置にいるチョウはアサギマダラというチョウです。1000キロ以上も海を越えて渡りをする「旅するチョウ」で、初めて八ヶ岳でこのチョウを見た時、大きな羽をひろげてふんわり優雅に飛ぶ姿に目を奪われました。その時の感動を刺しゅうにしました。
 リスは冬支度のころやってきて、わが家の庭の木の根元にも木の実を埋めていきます。かわいらしさが表現できていればうれしいです。

――本当にどのモチーフもかわいらしく、愛らしく、見ていて心が和みます。実体験として目にして、感じたことが刺しゅうにも表れているように思います。また、刺しゅうの刺し方でいきものの表情が変わるという話は驚きでした。何度もやり直しをしたと話されるように、作品を見ていると、そのひとつひとつに心を込めて刺しゅうされたことが伝わってきます。


さいごに

 作品のアイデアや失敗したときのエピソードなど、日常からヒントを得ていることを感じました。

 「宝箱」と呼ぶ箱に、残った糸を大切に保管されているように、一つひとつのモノや出来事を大切にされていることが、素敵な作品へとつながっているのだと思います。
 感じたことをクラフトに活かしてみる、まずは家にあるものでつくってみる、など取り入れやすそうなことから、一つひとつ行動に移されていますね。日常の中にヒントがあると思うと、より楽しいクラフトの時間を過ごすことができそうです。

 素敵な作品の背景には、必ず興味深いお話があり、毎回よろこびや発見があって、楽しい時間を過ごさせていただいています。

 次はどんなアナザーストーリーを聞くことができるのでしょうか?
 次回もどうぞおたのしみに~♪♪

(聞き手:SNIクラフト倶楽部・松尾富美子)


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